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ひろぽん小石川日乗

心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつくれば

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「ひろぽんの南イタリア旅行記」はこちら。

2009-10-01 (Thu)

[movie] 最近観た映画

『イントゥ・ザ・ワイルド』2007年製作 ショーン・ペン監督


 大学卒業と同時に都会と文明を捨て、森と共に生きることを選んだ若者の物語と思いきや、家庭問題を抱え込んだモラトリアム青年の自分探しの旅だった。

画像の説明

 むろん背景には、アメリカ文化の一端にある反都会主義(それこそソロー、エマソン、オーデュポンから60年代のヒッピー文化に至るまで)の系譜がある。さらに、荒々しい自然によって鍛えられ、男として成長したいという青年らしい気負い。ただ、そんな身勝手な“野望”の前に食料として犠牲になるウサギやジャコウウシはたまったものじゃないけれど。

 主人公クリスには、私生児として生まれた過去と、それを隠蔽するように一見幸福そうに営まれる擬似家庭への反発がある。大学卒業までは優等生としてふるまうが、いったんその擬制をリセットしない限り、社会的大人としての自立はなかったのかもしれない。そこで選ばれた通過儀礼が、全米を放浪する生活であり、アラスカの荒野への挑戦だった。

 放浪の旅で出会うのは、トウモロコシの刈り入れに従事する季節労働者であり、トレーラーカーで全米を移動する元ヒッピーたちだが、彼らにも「小さな悩み」はあり、「家庭問題」がある。隠遁生活に安住する孤独な老人にも、人とのつながりを求める瞬間がある。「ほんとうはクリスは、冒険ではなく、失われた家庭の再建をしたかったのだ」──というのが監督の示唆であろう。

 しかし、クリスはアラスカへ向かう。そこで何年生き抜くつもりだったのかどうかはわからない。ワイルドライフの経験を糧に、いずれは都会の人混みへと回帰するのは必至だったろう。

 荒野に放置された廃バスでの生活。廃バスというのが寓意的だ。荒れ野は、昔の荒野ならず。そこにも文明の浸食の跡が刻まれている。荒野の中へとはいうものの、クリスは荒野の縁に留まったまま、ただそれを覗き見したにすぎないのか。

 世間知らずのアマちゃんヤンキーの冒険譚といってしまえばそれまでだが、ただ、私にも共感するところはある。豊かさの中の不幸と自分探しの旅。かつての全共闘世代も直面した「現代的不幸」(@小熊英二)への抗いが、そこにはあるからだ。新鋭エミール・ハーシュの激ヤセの演技には驚いたが、これもまたカタチを変えた摂食障害という病いなのかもしれない。(DVD/★★★1/2☆)

『その土曜日、7時58分』2007年製作 シドニー・ルメット監督

 都会的なクライム・ストーリーとそこにおける破滅的人生を描かせたらこの人。83歳なのに、なんでこんな映画が撮れるんだと、その健在ぶりを感じたが、とはいえ往年の『評決』」『セルピコ』『狼たちの午後』にははるかに及ばない。前半部の展開は、コーエン兄弟の『ファーゴ』を思わせるが、コーエン兄弟にあるような突き放したユーモアがそこにはない。映画としては中途半端。

 一点、マリサ・トメイの40代半ばとは思えないハリのあるオッパイは必見。(DVD/★★★☆☆)

画像の説明

『接吻』2008年公開 万田邦敏監督(WoWoW/★★★☆☆)

『レイクサイド・マーダーケース』2004年製作 青山真司監督(WoWoW/★★1/2☆☆)


 いずれも悪い映画じゃないんだけれど、ツメが甘い。「接吻」のストーリーの仕立ては面白いが、主人公女性(小池栄子)の異常な心理を際立たせるためにこそ、もう少しディティールを重視して欲しかった。

 たとえば獄中結婚をかぎつけたマスコミが殺到するシーン。スクープ記事を狙うのだから、ふつうは接触するのは1社の記者だろう。あんなにいきなりドタバタ追いかけはしない。法廷や拘置所の面会所の描写にもリアリティを感じられない。


 主題を浮き彫りにするためのディティールの欠如は、後者の『レイクサイド』にも言える。子供たちの冷酷さをあらわすシーン(たとえば、スリッパでチョウを踏みつぶす)が、いくつかは描かれているのだが、中途半端。むろんこれを強調すると、謎解きが台無しになるというジレンマはあるものの..。結果としてテレビの「火サス」風のよくできたドラマ程度の印象に終わってしまった。


『バーダー・マインホフ 理想の果てに』2008年製作 ウリ・エデル監督

 めちゃくちゃ派手で、いい加減で、残忍で、展望のないドイツ新左翼闘争史。長尺。史実に即しているのだろうし、映像にリアル感は感じるのだが、時代背景以上に、68年世代の自己探しというあたりをもっと描いてほしかった。とりわけ、ジャーナリストから活動家へ転進するマインホフの内面がちょっとわかりにくい。内面がないと物語性が希薄になる。

画像の説明

 おそらく制作者たちがいいたいのは、警察官僚役のブルーノ・ガンツに言わせた言葉「社会の根本的問題が変わらない限り、彼らのようなテロリズムは止むことがない」というものだろうと思うのだが...それもまた表層的な理解ではある。

 結構役者がすごいんだと思った。重鎮ブルーノ・ガンツにアレクサンドラ・マリア・ララも出ている。『ヒトラー最期の12日間』のメンツだ。というか、マインホフ役のマルティナ・ゲデックは『マーサの幸せレシピ』『善き人のためのソナタ』の人だし...。マイナー作品と思っていたが、このあたりは意外。現代史資料としての価値はあるかも。(渋谷シネマライズ/★★★☆☆)。

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_ kunio@muon [『バーダー・マインホフ』ですが、おっしゃるとおり現代史資料としての価値がありそうです。メインストリームの史実ではあり..]

_ Circus [『イントゥ・ザ・ワイルド』。フリーマン・ダイソンの息子の話をなんとなく連想させますね。物理学者の父と数学者の母から離..]


2009-10-06 (Tue)

[trip] 鹿児島の旅

10/3から10/4まで、友人Mの墓参を兼ねて、鹿児島の旅を楽しむ。鹿児島市を訪れるのはこれで人生4回目ぐらいだが、ゆっくり観光したのは初めて。市内の交通は市電を利用。市の中心部は若者が多く、意外と活気があった。

土曜日昼のランチは、天文館の「和田屋」へ。刻みキャベツを入れた味噌ラーメン。

ramen.jpg

鹿児島ラーメンはトンコツスープと思い込んでいたが、Wikipedia によると「他の九州ラーメンと違い各店の個性が強く雛形的なラーメンが存在しない点が最大の特長」だという。この店の味噌ラーメンは、見た目にはパッとしないが、あっさりとしつつコクがあり、めんも太からず細からず、コシもあって、なかなかイケる。

墓参を終えたあと、夜は同じく天文館の薩摩郷土料理の店「吾愛人」。これで “わかな” と読む。由来は奄美の言葉で、“私の愛する人”。児童文学作家の椋鳩十が名付け親。ちなみに椋鳩十は長野の生まれだが、鹿児島で教員や図書館長、大学教員をしていた人。島尾敏雄とも交流があったとか。

kurobuta.jpg

アラカルトで頼んだ料理がすべて絶品。

きびなご刺身、地鶏刺身、かつおたたき、黒豚の桜島溶岩焼、黒豚とんこつ(角煮)、名物味噌おでん、ながらめ刺身、首折れサバの刺身などなど。「ながらめ」は店のメニューには「一口あわび」とあるがが、たぶん「とこぶし」のこと。たしかにあわびに似た食感。首折れサバも美味かった。

東京にも薩摩料理を謳う店はいくつかあるが、それとは別格の味。正直、薩摩料理を見直した。

翌日曜日は、レンタカーで、まずは薩摩半島を下る。山のなかをうねうねと往くスカイライン。稲刈りをほぼ終えた静かな山村風景を見やりながら、知覧町(南九州市)へと向かう。

知覧町では「特攻平和会館」 を見る。旧陸軍特別攻撃隊隊員の遺品や関係資料を展示し、当時の記録を後世に伝える施設で、私は一度は見ておきたかったところだ。

沖縄特攻作戦で散った兵士たちだけでなく、その前のレイテ島などフィリピンでの特攻隊の記録も残されている。最近は石原慎太郎が制作総指揮をとった映画の舞台としても知られ、そのポスターや撮影に使われた特攻機のモックアップなども展示されていた。

数千の写真、遺書、遺品などを見ていると胸が詰まる。隣で食い入るように遺書を読む若いご婦人は始終、鼻をすすりあげていた。ただ私の痛切な思いは、石原慎太郎などとは違って、彼らの特攻精神に感動してのものではない。想像を絶する犠牲の大きさ、その残酷性に心が暗くなるのだ。

「特攻隊員たちの崇高な犠牲によって生かされ、国は繁栄の道を進み...」と会館の資料にはあるが、戦史の客観的分析からすれば、当時の特攻隊の攻撃力ではたいした戦果を挙げることができなかったわけで、一口にいえば「無駄死に」だった。少なくとも沖縄決戦に至る前に停戦していれば、数千の若者は死ぬことはなかった。

若者たちを無駄死にさせた当時の軍や為政者の責任をどうとらえるのか。そのあたりのことは、この会館の展示には全く触れられていない。とはいえ、愚直さにおいて世界史にも希な、組織的自爆攻撃を記録することは重要であり、その意味においてのみ会館の存在価値はある。

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知覧町の一角に江戸の街並み、武家屋敷群が残されていることは、それまで知らなかった。秋田の角館にも同様の街並みがあり、規模的にはそれに劣るが、保存状況がよく、なかなかいいものだった。

その後、一行は鹿児島市に戻り、フェリーで桜島に渡り、島を半周して、錦江湾東岸を北上しながら霧島方面に向かう。途中、地元の人しかほとんど知らない、「湯穴(つあな)温泉」 にも立ち寄る。濁ったカルシウム炭酸水素塩冷鉱泉。湯船の縁が鍾乳石みたいになっていて、蛇口から飲むと、たしかに甘い炭酸水の味がする。

霧島神宮を経て、もう一つ温泉に入り 、それから県内最古の木造駅舎「嘉例川駅(かれいがわえき)」 へ。最後は、鹿児島空港から帰京。

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_ N田 [霧島温泉が抜けてますね。印象薄かった?]

_ ひろぽん [おお、忘れてた。追加しました。]


2009-10-07 (Wed)

[politics] 親族間の殺人、亀井金融相「大企業に責任」発言が波紋

大企業の経営姿勢を巡る亀井氏の発言は次の通り。 「(大企業は)従業員を正社員からパートや派遣労働に切り替え、安く使えればいいということをやってきた。人間を、自分たちが利益を得るための道具としか考えないような風潮があり、社会の風潮もそうなる。人間関係がばらばらになり、家族という助け合いの核も崩壊していっちゃう。改革と称する極端な市場原理、市場主義が始まって以来、家族の崩壊、家族間の殺し合いが増えてきた。そういう風潮をつくったという意味で、(経団連に)責任があると言った」(6日、閣議後の記者会見で)
引用元: asahi.com

「人間を、自分たちが利益を得るための道具としか考えないような風潮」という指摘はある程度当たっているが、これは今に始まったことではない。資本主義発生以来、いやそれ以前からある問題だ。

亀井は一種の「疎外論」を展開しているのだと思われるが、そこには彼の古いマルクス主義的教養が見え隠れしている。ただ、「市場原理主義」による人間疎外が家族的紐帯、家族的共同体を破壊するという指摘には、彼の保守的な思想があらわだ。左右の思想の脈絡のない折衷。

本人は本質を突いたつもりだろうが、論理的説明としてはムリがある。これでは「家族殺しが起きるのは日教組が悪い」という、右派が好む詭弁の裏返しにすぎなくなってしまう。


2009-10-09 (Fri)

[life]値下げの秋

昨日、某社より原稿料値下げの通告。25%の値下げってキツいよ。まあ、連載打ち切りよりはマシだけどさ。緊縮財政、一段と。

[politics] ノーベル平和賞にオバマ米大統領

......ってなんか違うような気がする。

「おまえにはノーベル賞やるから、オリンピックはリオにやれ」と誰かが言ったとか言わなかったとか。「核なき世界に尽力」ったって、世界中、いまだ核だらけじゃん。尽力するだけでもらえるんだったら、他にも一杯いるでしょうが......。

ノーベル平和賞、昔、佐藤A作がもらったときもぶったまげたものなあ。後になって「佐藤氏を選んだことはノーベル賞委員会が犯した最大の誤り」と弁明されてもねえ。

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_ N田 [そういうのって5%で→15%で→10%でってやっていくんじゃないの?下請法の禁止事項に抵触しそうね。]

_ Y氏 [緊縮財政の中よく言った (^^) ノーベル物理学賞と一緒にして欲しくないぞ>平和賞]

_ ぜっぴ [アメちゃんに対し、核廃絶と地球温暖化対策の尻を叩こうという北欧の深謀遠慮では?]


2009-10-10 (Sat)

[media] Emmy the Great

古い友人が、最近のアメリカのシンガーソングライターで面白い若手たちというので、 Joshua James Schuyler Fisk を紹介してくれた。

後者は名女優、シシー・スペイセクの娘だというじゃないか。なんか「知人の娘さんが、今度歌手でデビューしましてね」というのに似た、妙な親近感を感じる。

iTunesStore でサワリを聴いて、とりあえず Joshua James のアルバムを購入。なんだろう、いまどきの日本のフォークソング系ストリート・ミュージシャンとはかなり違う。「個」の音楽の粒子がそこに引き立っている感じ。

アコースティック・ギター一本で社会に向かって何かを歌い、言い募るシンガーソングライターは、今も昔も貴重だ。

そんなわけで、ジョシュア・ジェイムスのことをあれこれネットで調べている途中に、「Emmy the Great/エミー・ザ・グレート」という、英国発の若い女流シンガーソングライターにぶつかった。ともあれ、この ビデオを見てくんなまし。

シンプルだけれど、インパクトがある。可愛いんだけれど、ちょっと女の子の底知れぬ怖さも秘めて、みたいな。

うーん、こういうのには弱いんだ。昔から。いくつになっても。

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_ ひろぽん [なんと Joshua James のコンサートが火曜日渋谷であり、ゲストが、Emmy the Great なんだって..]


2009-10-11 (Sun)

[politics] 広島・長崎、五輪招致を正式表明 「平和をアピール」

引用元: asahi.com(朝日新聞社):広島・長崎、五輪招致を正式表明 「平和をアピール」

私の立場をはっきりさせておきたいのだが、私はオリンピックそのものの開催に反対していたのではなく、石原慎太郎という野卑な政治家の人気取りのための2016年東京招致に反対していただけである。したがって、今回のヒロシマ・ナガサキについてはとりあえず賛成。「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進する」というオリンピック憲章に素直に従う限り、むしろ適格性は現在の東京よりは、広島・長崎にある。

まあ、国内的には石原の東京再挑戦という無謀な企てを阻む心理的効果はあるだろう。広島・長崎に立候補されては、もはや東京の出る幕はない。


2009-10-12 (Mon)

[movie] 映画『君のためなら千回でも』

最初はこのタイトルどうなんだろうと思っていたが、見終わってやはり原題の『The Kite Runner(凧追い)』よりは、これしかないかな、と。

70年代のアフガニスタン。裕福なパシュトーン人の家庭に雇われる、モンゴロイド系少数民族ハザラ人の召使い一家。雇い主の息子と召使いの息子という関係にありながらも、アミールとハッサンは兄弟のように育ち、仲がよい。

だが、12歳の冬の凧合戦の日、臆病者のアミールはハッサンを裏切り、盗みの汚名まできせて友人の人生を台無しにしてしまう。それから26年。今はアメリカに住み新進小説家としてデビューしたアミールのもとに一本の電話が。彼は意を決して、タリバーン支配下のカブールへ償いの旅へと旅立つ……。

アフガン出身の作家カーレド・ホッセイニの原作はあくまで小説だが、彼がかつて育った時代「中央アジアの真珠」と呼ばれたカブールの美しい街並みが、郷愁と共に再現されている。それが78年の軍事クーデターとその後のソ連侵攻、さらに98年のタリバーン実効支配に至る過程で、無惨にも崩壊していく様子も。

私は多数派のパシュトーン人によるハザラ人に対する差別がこのような形で現れていることをこれまで知らなかった。亡命したアフガン系米国人の生活の一端もなかなか興味深い。ソ連兵やタリバーン兵の腐敗と暴虐も、どこまで事実に即しているかは不明ながらも、かなりひどい描かれようだ。

こうしたアフガニスタンの歴史的・社会的な文脈とエキゾチックな風景が横糸に、少年たちの友情の物語が縦糸に織り込まれ、奥深い映画になっている。

もちろん、アミールとハッサンの知られざる関係や、今はタリバーン幹部になった幼なじみとの遭遇シーンなど、韓流映画も真っ青のご都合主義的な仕掛けもあるのだが、それで映画が興ざめになることはない。誰もが想起するのは、カンボジア内戦とポル・ポト支配を舞台に、ジャーナリストとアシスタントの友情を描いた映画『キリング・フィールド』(84年)だろう。

ところで私も子ども時代に凧揚げに興じたが、空中で相手の凧の糸を切る凧合戦はやったことがない。映画を見てもよくわからなかったのだが、どういうテクニックを使うんだろう。マーク・フォスター監督。公式サイト (WoWoW/★★★★☆)


2009-10-15 (Thu)

[movie] 『ブラックサイト』ダイアン・レイン主演

サイバー犯罪を扱う映画もネット技術の進歩を追いかけ、さらに追い抜くように、新手の犯罪手段を考案するようになる。『真実の行方』(96年)『オーロラの彼方へ』(00年)が印象深いグレゴリー・ホブリット監督、ダイアン・レイン主演の『ブラックサイト』(08年)。

猫を罠にかけて殺すシーンをえんえんと流す闇のサイト killwithme.com は、物見高いネットユーザーの間でしだいに評判になる。そのうち、毒物入りの注射器をセットした拷問台に、男を縛り付けた映像が現れた。アクセス数の増加につれて、注射器からは少しずつ毒物が被害者の体内に注入されるという仕掛けだ。

Webのアクセスカウンターと、外部の機器や装置のアクチュエーターを連動させるということは、技術的に可能なんだろうか。Webアクセスを何らかの信号として取りだすことができれば、決して不可能だとは思わないが、それが実現したという話は聞いたことがない。ただ、この映画ではもっと先を行っていて、携帯電話や自動車までがネットを介して「ハック」されることになる。

目の前でリアルに進行する犯罪を阻止すべく、FBIのサイバー捜査官ダイアン・レインらは動き出すのだが、サイトのIPアドレスはたえず変更され、遮断してもすぐにそのサイトのコピーが現れる手の込んだ仕掛けが施されている。しかも使用サーバーはロシア、すなわちFBIの管轄外というの一応の説明(いまどき、これだけでは弱いと思うけれど)。捜査官たちは被害者が死ぬまでの瞬間をただ呆然とモニターで見やるしかないのだ。

昔から闇の世界ではリアルな殺人儀式を観衆に見せたり、それをビデオに撮ったスナッフムービーというものがあるらしい。それらがネットに流通してもなんらおかしくはない。さらに、2ちゃんねるに代表されるような野次馬サイトでは、猫殺しの画像が評判を呼び、自分で放火した家の炎上シーンを投稿する輩もでてくる。

荒唐無稽と笑い飛ばせない技術的可能性と、実際にありうる、ネットを感情の増幅装置として利用した劇場型犯罪が、この映画のベースだ。技術的問題はいろいろと指摘されようが、それなりにリアルっぽく映画に取り込んでいるなという感じ。

人々の熱狂的な好奇心と、冷酷な無関心はコインの裏表というあたりが、映画の伝えるメッセージ。「死刑だってそのうちネットで中継されるようになるさ」というような台詞があったように記憶している。

ダイアン・レインを観るのは『パーフェクト・ストーム』(00年)以来だと思うが、FBi捜査官としての激務と子育てに疲れ果てたオバサンな感じがよく出ていた。80年代の知的美貌は取り戻すべくないが、まあ、これはこれでよいんではないだろうか。

最後は、体操選手のようなしなやかな肉体(スタントウーマンだとは思うけれど)で反撃し、黄門様の印籠のようにFBIのバッチを見せる派手な立ち回りを見せるのだが、このあたりはジョディ・フォスターの最近の演技を意識しているようにも見える。そう、ダイアンはジョディより3つも若いんだものな。まだアクションで生き残れる?(WoWoW/★★★☆☆)


2009-10-24 (Sat)

[movie] 『My Son ~あふれる想い~』

『トムマッコルへようこそ』の原作者でもあるチャン・ジンが2007年に撮った作品。強盗殺人で無期懲役の模範囚が一日だけ外出を許され、15年も会っていない息子と母親に会いに行く。息子とは3つのとき別れたままでこれまで一度も面会したことがない。懲役囚はその顔さえ忘れてしまっているのだ。

映画の途中までは、ぎこちない父子関係にしだいに血が通い始める過程をたどって、まあ、よくある父子モノかなと思ったのだが、終わりの15分ぐらいがちょっと違う。驚愕のラストというほどでもないが、すっかりダマされてしまった。その詳細を書いてしまうと未見の人には申し訳ないので、一切書けないのだが。

『トンマッコル』にも共通する独特のユーモアは好ましい。

監督は「私自身はストーリーが順調には終わらない作品の傾向が好きだ。私の好みもあるがこのような展開にしなければきっと退屈だったのではないだろうか」と、あるインタビューで述べている。

たしかに退屈さからは免れている。というよりも、ここでは「父」と「子」の血縁関係はいわば一種の象徴性なのであって、それにとらわれなくても、人と人の心の通い合う瞬間というものはあるのだと、気づかされるのだ。(NHK-BS/★★★☆☆)


2009-10-25 (Sun)

[life] 表参道AOビル

土曜日、表参道を散歩していたら、紀伊國屋のところがこんな風なビルに。ずっと工事しているなとは思っていたけれど、オープンしたのいつだっけ。色調を細かく変えた壁面ガラスと、タワー棟の全面に輝くイルミネーションが軽快で美しい。ファッション関係のショップが多いが、時節柄テナントが埋まらないようで、募集中の掲示がしてあった。画像の説明画像の説明

[movie][life] ときにはそれを愛と呼ぶしかない衝動

表参道に出かけたのは、イメージフォーラムでSと『アンナと過ごした4日間』 を観るため。

感動的という感じの映画じゃないけど、見応えは十分。東欧の重たい雲の色が、映画全体の色調になっている。とはいえ、映画のテーマは「愛」。限りなく偏執狂的な「犯罪」であるけれども、ときにはそれを「愛」と呼ぶしかない衝動だ。

回想のなかでたまたま主人公が、レイプされる女性を目撃するシーンがある。主人公の「愛」の形とは似ていて非なる、正反対の暴力。そのあたりの描写は、サム・ペキンパーも戦慄するほどのバイオレンスの美学だ。

主演男優の身振りが、Mr. ビーンを思わせるところがあって、少し笑える。ストーカーされる女優が全然美人じゃなくて、ふつうのおばちゃんみたいなのも、また一興。

映画館を出ると雨がぱらついている。銀座のもつ焼きの名店「ささもと」へ。ここのもつは絶品だ。店の雰囲気も場末と違って、女性でも臆せず入れる上品さ。やはり銀座だ。焼酎を8:2ぐらいの割合で赤ワインで割った「葡萄割」もなかなかいける。

ここで結構飲んだんだが、腹にたまるという感じではなかったので、小石川の焼肉屋へ。へべれけになって深夜に帰還。

ところで昨日来、Booxter 作者の Matt からテスト依頼があり。小さなテストプログラムを3度にわたって走らせる。最後はなかなかいい感じだった。これで直るかなあ。

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_ ET [この春のオープンですね。見た目はユニークだけどまさに空っぽの世界です。表参道は金曜日に行きました。こっちのほうが面白..]


2009-10-27 (Tue)

[life] たまには上野の美術館

天気がよかったので、散歩がてら上野の国立西洋美術館へ「古代ローマ帝国の遺産」展を観に行く。

帝国創建期の偉人たちの肖像彫刻やポンペイ、エルコラーノなどの出土品を中心に、帝国の芸術・文化を探ろうとするもの。ナポリ国立考古学博物館の所蔵品が多いが、実は4月にナポリに行ったときはちょうど博物館が休館日で、見逃してしまっていたのだ。結局、ポンペイ遺跡にも立ち寄らなかったので、その一部とはいえ、東京で観ることができるのは嬉しい。

ローマの美術品やポンペイ壁画もよかったのだが、それ以上に感銘を受けたのは特別出品されたアレッツォのミネルウァ」。紀元前3世紀のギリシアの青銅像で、展示会の趣旨からは外れるのだが、「日本におけるイタリア2009・秋」事業の関連で特別展示となったらしい。

身にまとうケープや胸当て、ゆったりとしたウエストまわり、そして兜の細部を浮き上がらせる彫刻の襞は、息を飲むほど優美だ。青銅は二千年のときを経て、質感豊かに、にぶく、ふかく輝く。憂いをひめた瞳と意志的な小さな唇、知と闘いの女神らしい気高く引き締まった表情は、西欧小顔美人の一つの典型ではあるまいか。

わたしゃ惚れましたね。「ミロのビーナス」なんぞより、こっちのほうが好きだな。

美術館の後は、木々の色に秋の深まりを感じつつ、上野桜木町から谷中あたりを散歩しながら帰宅。あんまり空が青いので、PEN E-P1 でパシャパシャしちゃいました。

本郷あたり 国立博物館 谷中あたり

この日記について、筆者は必ずしも内容の信憑性を保証するものではありません。あしからず。