後れ馳せながら、DVDで『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』を観た。1971年に『純愛日記』として公開され、田舎の高校生であった私を痛く感動・興奮させた映画のオリジナル完全版だ。『純愛日記』の思い出については、以前、同じロイ・アンダーソン監督の『散歩する惑星』のところで少し触れた。
ひっきりなしにタバコを吸う少年少女たちやそのファッションはいかにも70年代的ではあるが、それを除けば、映画はけっして古びてはいない。35年前のフィルムは、見事なまでにデジタル処理されており、映像のみずみずしさは当時も今も変わらない。撮影は『みじかくも美しく燃え』や『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』と同じヨルゲン・ペルソン。説明と台詞を極端に排除したストーリー展開は、まさに「スタイリッシュ」と呼べるものである。
だからけっして悪くはなかったのだが、あの感動を再びというのとはちょっと違う、不思議な体験をした。
私の記憶の中で、この映画は典型的な青少年恋愛ものなのだが、今回再見したら、印象が微妙に違うのだ。もちろん14歳の少年少女が主人公であることは間違いなく、彼女たちの幼いなりに真剣な恋愛がメインストーリーであることもまたその通りなのだが、その恋愛譚を地に浮き出た文様だとすれば、むしろその「地」の部分にこそ不思議な味わいがあって、それが映画のふところを深いものにしているのだ。「地」にあるのは何かといえば、それは、二人の家族・親戚など周囲の大人たちの、エキセントリックな立ち居振る舞いだ。
初公開当時は約20分カットされ、今回のが完全版だという。当時もカット部分があることは知られていたが、その多くは少年と少女のセックスシーンだとされていた。しかし、どうやら他の部分も削られていたようだ。
たとえば、少女には独身の叔母が一人いて、それが子供のいない独身の身の不安を延々と少女に語るシーンがある。あるいは、田舎の別荘に両家が集まるパーティでは、異常なまでに笑い転げるその叔母が、唐突に、対面する席の男から殴られたりする。前後の脈絡は描かれないから、その暴力がどういう事情なのか、観客にはわからない。ただ、それらのシーンを、私は全く覚えていなかった。
厳密な考証のためには当時のフィルムを再現して比較するしかないが、おそらくこのあたりの一見、意味不明なシーンも、71年版ではカットされていたのではなかろうか。
ラストのパーティシーンでは、少年の父が沼の中で入水自殺を図り(実際には周囲の勘違いだったのだが)、みんなが霧の中を大慌てで捜索したりするシーンがある。これもまた覚えていない。「ええっ、こんなカット、あったっけ」と、私は呆気にとられた。
当時削除されていたとすればやむを得ないが、そうでなかったとしても、私の記憶がそうした、映画の「地」を成している「問題のある大人たち」の存在をすっかり消し去っているということはあるだろう。長い間の風水で柔らかい地表が削られ、堅い部分のみが岩山として残るのと似た、私の側の記憶の風化。そのせいで、35年前と今回では、映画の印象が微妙に違った。少年少女の切なくも愛らしいラブストーリーは、それ自体で独立してあるのではなく、すべて大人たちの鬱屈の鏡の中でこそ、輝いていたのだ。
今回、完全版を観ることで、ロイ・アンダーソン監督の、変わらぬ作風というものを感じることができたのは幸いだったかもしれない。『スウェーディッシュ〜』に登場する奇矯な大人たちは、その後の『散歩する惑星』におびただしく登場するおかしな「隣人」たちによく似ている。未見だが最新作『愛おしき隣人』にも、きっと「彼らは」同じように登場するはずだ。
その大人たちの表情には、おかしみに彩られた死の匂いがする。そもそも、『スウェーディッシュ〜』で少年と少女が出会うのは、老人介護施設のようなところだった。人生の終わりに近づいた老人たちの世界。そこに14歳の少年少女たちの、若い性と初々しい好奇心が、対照的に置かれている。美しい田園の緑を息づかせながら、ときに雲に遮られるような斜光線の中に、少年と少女は置かれている。その輝きが一瞬であればこそ、映画の生命は永遠なのである。
たまたま午前中、家にいたので見てしまった、全豪オープンテニス・女子ダブルス準々決勝、杉山-ハンチュコバ組対ブラック-フーバー組。杉山組にとってはかつて同じ全豪オープンで完敗した相手。2セットがタイブレーク、しかも最終セットのタイブレークはデュースが7回も続くという大接戦。マッチポイントの一つ前の、相手前衛の動きの裏をかいた杉山のパッシングが決め手だったな。テレビで見ていても、ブラック組に一瞬動揺が走るのがわかった。
いやあ、実力が均衡していると、こういうホットなシーンが楽しめるから、対面ボールゲームは面白い。しかも国籍・人種を超えたペアリングというのも、プロテニスのダブルスならではの光景。東欧系のなかでもモデルなみ長身のハンチュコバと、最近の日本女子では小柄なほうの杉山愛ちゃん。この凸凹な組み合わせが、いとおかし。
この日記について、筆者は必ずしも内容の信憑性を保証するものではありません。あしからず。