昼過ぎ、比較的空いた地下鉄東西線に乗っていたら、白い制服を着た小学生の男の子が無心に雑誌に読みふけっている。表紙には「Hot Pepper」。これってR社が発行する無料クーポンマガジンじゃないの。どこかヨサゲな店を探していたのか、たんに活字に飢えていて、駅に置いてある無料誌を手に取っただけなのか。少年は童話とかマンガとかを読むものとばかりと思っていたが……。そのうち「R25」ならぬ「R12」とかが出たりして。あの制服は、たぶん暁星あたり。
飯田橋で乗り換えた南北線。これも空いていたのだが、車両の向こうからときおり、若くない女性の声で絶叫。精神的ストレスを抱える人が、車内で一人でわめくという、ときどき見かける風景。私の目の前を通り過ぎる中年女性のその叫びは「何が、ニチダイゼンキョウトウだっ!」とたしかに聞こえた。「日大全共闘」? もしかしたら聞き違いかもしれないが……。39年前のトラウマが、いまだ彼女の精神を蝕み続けているのだろうか。
日がやや陰り、さわやかな秋の夕暮れに向かう時間。植物園前〜千石〜六義園前〜駒込橋〜本郷通り〜白山上あたりを自転車でゆるゆる散歩。
駒込橋あたりで、「上海チキン」の看板を掲げた小さな中華料理屋。「小閣楼」が店の名前。椅子やテーブルは粗末だが、上海租界風のポスターをあしらった、あえてレトロ系な雰囲気。後でネットで調べたらけっこう有名な店らしい。売り物の上海チキンはブツのまま釜で焼く鶏で、絶品とか。ただし今回は一人だったので、ビールと冷麺のみ。冷麺は茹でた鶏と胡瓜や香菜をふんだんに添えたもので、赤いソースがなかなか美味しかった(950円)。
名物らしい太った店主。常連風の夫婦の隣に席を取って、なんか勝手にお薦め品を注文したりする。私は初見の客だが、帰りがけのレジ台から、私が着ていたアインシュタインTシャツと私の顔を交互に指して、「似てない?」。アハ、博士と私が似ているのは口ひげだけだけど。おせっかいだが、憎めない人柄なんだろう、きっと。
月曜、宮崎出張。地銀のシステム担当者の話、つまらない。市内で地鶏のなんたらを食べようと思ったが、時間がなく、結局空港内の居酒屋へ。炭火でもうもうと焼き鳥を焼く居酒屋が、空港ロビー内に店開きしているのはもしかしてここだけかも。ただし、味はイマイチ。土産物屋には「そのまんま知事」の顔が氾濫。
水曜、大阪出張。転職エンジニアの話、面白い。新梅田食道街のおでん「たこ梅」(Thanks>長官)で適当につまみながら、同行した編集嬢のグチを聞く。おでんは美味しかったが、いろいろ急いていることがあって、酔わず。帰京便では爆睡。
木曜、戸塚〜新宿展開。エンジニアメーカーの総務セクションの人の話、げんなり。外資系コンサルタントの話はまずまず。夕方から原稿書き。数日前から胃がムカムカして食欲少なし。俺も「機能性障害」か。
今週のこれまで、一番爽やかだったのは、スイス戦の日本代表。なかでも松井のPK誘いのうまさに感嘆。一番サイテーだったのは、お坊っちゃま首相。あれだけ愚弄されたのだから、国民は奴の政治生命を永久に叩き切るべし。
すべてDVD。偶然ながら、邦画はいずれもベストセラー小説の映画化作品。『模倣犯』(森田芳光監督/宮部みゆき原作 2002年作品)、『地下鉄に乗って』(篠原哲雄/浅田次郎 2006年)、『手紙』(生野滋朗/東野圭吾 2006年)、『空中庭園』(豊田利晃/角田光代 2005年)。売れ筋の漫画原作、小説原作に頼ることが多く、オリジナル脚本が少なくなった日本映画の現状を、はからずも確認することになった。
『模倣犯』は森田の最大級の失敗作。『海猫』(2004年)もあんまり誉められた映画じゃなかったし、森田ももう終わりかなと思ったが、『間宮兄弟』(2006年)は『の・ようなもの』(1981年)を彷彿とさせる本来の森田テイストで楽しめた。いまどきの日本映画界で森田ほどコンスタントに映画が撮れている監督は少ないが、器用に何でもこなして作風を荒らすのではなく、自らの撮りたいものだけをしっかり撮るべきだろうな。奥田英朗原作の『サウスバウンド』を秋に公開予定というが、どうなることやら。
『地下鉄に乗って』もイマイチ。タイムトラベルの形式に安易に寄りかかりすぎ。
『手紙』はけっこうよかった。ラストの刑務所の慰問会で、玉山鉄二が滂沱の涙を流すシーンは感動的。全体的には、なくもながの演技や脚本も多いが、エンディングの緊迫感がすべての難点を救っている。
『空中庭園』は秀作。小泉今日子の演技が光る。家庭円満のために無理してふりまくわざとらしい笑顔が、一瞬、振り向くと、少女時代のトラウマを背負ったままの夜叉のような相貌として立ち現れるシーンは、凍り付くほど怖い。
女優としての小泉今日子が一皮剥けたのは『風花』(相米慎二監督、2001年)あたりからじゃないかと思うが、『センセイの鞄』(久世光彦演出、2003年)では安定した演技力を発揮、さらに本作品あたりで、ほんといい女優さんになったと思う。洒脱な婆さん役の大楠道代とか、優柔不断の浮気夫役の板尾創路もいい。
洋画ではイーストウッドの『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』を先月に観ている(観るのが遅くて...)。共に完成度は高く、日本視点から描いた前者のほうにより興趣が湧いたが、よく出来た戦争映画という以上の感想はない。うまく言えないんだが、「出来すぎ」という感触がぬぐえないのだ。もちろん悪い映画じゃないんだけれどね。
『ブラック・ダリア』(デ・パルマ監督)は、なんだこりゃ。おそらく原作を消化しきれない脚本の悪さだろうな、何でこの人がこの人を殺すわけ? てな感じで、まったく筋が追えない。デ・パルマ的破調といってしまえばそれまでだが……。
ところでデ・パルマを含む複数の監督が、イラク、アフガンを舞台に新作映画を準備中という(参照記事:米映画界で戦争テーマが復活、話題作が続々登場)。『ユナイテッド93』のポール・グリーングラス、『クラッシュ』のポール・ハギスらが、帝国の戦争の今をどう撮るかに注目したい。
東京で起業した会社を潰し、女房とも別れ、逃げるように実家のある北海道に帰ってきた男(伊勢谷友介)。兄(佐藤浩市)はばんえい競馬の調教師。弟とは13年ぶりの再会だ。最近ずっと勝てない女性騎手(吹石一恵)、兄を世話しながらも結婚に踏み切れない女(小泉今日子)、廃馬寸前の競走馬「うんりゅう」らとの交流をからめながら、男が立ち直っていくストーリー。
根岸監督の作品を観るのはもしかしたら『ウホッホ探検隊』(1986年)以来かも。正統派的な撮り方で、演出のきめ細かい監督という印象があるが、意外と寡作だ。今年は竹内結子主演の『サイドカーに犬』が公開されたが、単館上映だったためかあまり評判を聞かない。
帯広の雪、馬の息、競馬場の土から立ち上る湯気など、黒と白のコントラストを基調とした端整な映像が美しい。Y・Nさんの日記に出てきたタウシュベツ橋梁が雪に映えて美しいたたずまいを見せる。綿密に計算されたシーンを丹念に積み重ね、静かに語りかける映画づくりは好感がもてるが、いまどきの映画に比べると少々「古典的」味わいといえるかもしれない。雪玉を屋根の上に上げて馬の無事を願うシーンは、タイトルの由来でもあるが、二度使うだろうなと思ったら、その通りになった。
俳優陣は健闘。伊勢谷の甘えてふて腐れた口調はちょっと気になるが、これもダメ男の再生の物語ゆえの演出か。佐藤、山崎努らベテランに引き立てられ、演技にはなっている。伊勢谷の元同僚を演じる小澤征悦が意外といい。吹石も女性騎手役を体当たりで好演。
ちなみに、北海道遺産にも指定されるばんえい競馬は、協賛する自治体の財政難でいまや風前の灯火。今年度はなぜかソフトバンク・グループが支援していることは、先月のソフトバンク取材で知った。(DVD、☆☆☆★)
先日のNHK-BS「週刊ブックレビュー」などを参考に、ポピュラーサイエンス系の本などを購入。bk1にて。
・吉田太郎著『世界がキューバ医療を手本にするわけ』築地書館
・福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』 (講談社現代新書 1891)講談社
・西成活裕著『渋滞学』 (新潮選書) 新潮社
・ギャヴィン・プレイター=ピニー著『「雲」の楽しみ方』河出書房新社
・三澤慶洋著『図解でわかる飛行機のすべて ─飛行のメカニズムから航法・離着陸まで』日本実業出版社
・竹田いさみ他編『オーストラリア入門 第2版』東京大学出版会
最後の二つは入荷待ち。
それからディリー・バックアップ用の外付HDDの容量がいっぱいになったので、秋葉館の通販で500GBのHDD(FireWire400/Seagate製)を購入。明日到着予定。
本日の晩飯は、近所の「イーノ・イーノ」。イタリア産のフレッシュ・ポルチーニのソティと、北海道産牡蠣のパスタ。ポルチーニの香りに酔い、カキは厚岸じゃなくて別の産地で名前忘れたけど、そのふっくらとした食感にクラっとなる。この店の素材と料理のレベルは年を追うごとによくなっているような気がする。
この日記について、筆者は必ずしも内容の信憑性を保証するものではありません。あしからず。
_ 長官 [現時点では総裁候補です。もうすぐ内閣総理大臣になる予定です。]
_ kusa [せっかくChohkan.orgを取ったのに、souri.orgが必要ですね]