ようやく映画を観られる日常になった。
■『クラッシュ』(ポール・ハギス監督@シャンテシネ ☆☆☆/☆5つで満点、★は1/2)アカデミー賞授賞式の中継を観ていて、ノミネート作品を全然観ていない(あるいは知らない)のにショックを受けて、あわてて観に行ったのがこれ。
mixi にも書いたけれど、映画の技法的にもテーマ的にも、あまり斬新さってのを感じなかった。LAの庶民の日常を、群像劇として描くというのであれば、ロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』(93年)を思い出さないわけにはいかない。それと比較しちゃ可哀相ではあるけれど、最後まで消化不良感が残る。
ま、アカデミー賞というからびっくりするけれど、ふつうに観ればいい映画かも。音楽はいい。というか、こういう気怠いのは好き。■『ふたりの5つの分かれ路』(フランソワ・オゾン監督@DVD ☆☆☆★)
私としてはふつうあり得ないことだが、サントラCDを先に買っていて、気づいたら映画のロードショーはとうに終わっていて、レンタルDVD化されたんで、ようやく観られたという映画。
ボビー・ソロなど懐かしのイタリア・カンツォーネが挿入されるんで、てっきりイタリア映画かと思っていたら、フレンチだった。30代後半ぐらいの夫婦。離婚届けのシーンから、夫の浮気の告白、妻の出産、結婚、出会いへと5つのシーンを時系列的に遡る形で展開する。男と女の出会いと別れ自体は、百万遍繰り返されるテーマだけれど、その後の二人の道行きがわかっている分だけ、時間を逆行するたびに、人生の一刻一刻の切なさと愛おしさが心に浸みる。 巻き戻して、途中を編集したくなる人生。
原題の『5×2』の邦訳は見事。オゾン監督作品は、シャーロット・ランプリング主演の『スイミング・プール』(04年)も良かったな。今度『まぼろし』(01年)など他の作品も観てみよう。
■『ニュースの天才』(ビリー・レイ監督、トム・クルーズ製作@DVD ☆☆☆)
米国の高級誌の若きスター記者が在任中に書いた多くの記事が、ニュースソースからしてでっち上げだったという事件(実話)をベースにしている。雑誌名や人物名も実名で登場する。
米国の雑誌編集部における校閲体制とか、記事の不確かさを突っ込むライバル誌の編集者と電話会議で議論するところなど、いくつか興味深いシーンも。しかしここまで人を騙せるというのは、すごいストーリー・テラーだったんだな、この記者。雑誌社を解雇後は法科大学院に進み、その後、自分を主人公にした暴露(反省?)小説を書いたというが……。
DVDでは実在の主人公スティーブン・グラス本人が登場して事件を振り返る、短いドキュメンタリーがおまけについている。敗者復活が可能なお国柄ならでは?
天気の良い春の金曜午後に誘われて、谷中散歩。2月の東京下町ウェルカムパーティで調べ、極私的に興味のあった店、谷中の「乃池」から「みぢゃげど』へとハシゴ。
「乃池」では穴子寿司をちょっとつまむ程度。ほろほろとした食感は評判通り。それから蛇みちを歩いて、夕陽が落ちる前に口開けの「みぢゃげど」へ。外観はふつうの汚い民家で、暖簾を出してないと(いや、出していても)ちょっと気づかない、というか入りにくいわな。
上品なおばあさんとおじいさんがやっている。おばあさんのほうが、400年続く津軽藩出入りの商家の伝統料理を受け継いだ。シャキシャキとした津軽弁が心地よい。物言いにはちょっと宣伝過剰なところもあるが、ま、それも愛嬌ってとこで。
津軽の地酒が豊富。「ん」という変わった名前の銘柄を四合瓶で頼むと、お決まりの組料理(コース料理)が始まる。
伝統的な地方料理というと、質朴なイメージがあり、実際素朴な味わいなのだが、代々の藩主が京都好きだったということで、系譜的には京料理の影響を受けているようだ。いわば、津軽懐石というべきか。
材料は津軽産の魚や野菜のみを使用。8品ほど並ぶ中でも、ホタテの和え物に上質の卵の黄身をそぼろにしてかけた一品は、高級フレンチのデザートにも似た高貴なたたずまい。最後は味噌仕立ての鱈鍋がでてくるが、この味噌がまた美味いので、思わず最後まで飲み干す。
「地もやし」というものをここで初めて食した。「おいおい、これまで食べていたもやしってのは、なんだったんだ」というぐらい、歯ごたえと滋味があり、もやし本来の香りを認識。
初めて食べる料理ばかりだが、どこかに懐かしさをおぼえる。そのアメイジングな感じも含め、総じて、一人1万円強はけっして高くはない。
イチロー曰く「きょう負けるということは、日本のプロ野球に大きな汚点を残すことと同じ」。うーん、なんだろう、この気負いは。「向こう30年は日本には手は出せないな、という感じで勝ちたい」という発言も、芝居じみている。韓国に対してコンプレックスでもあるのかね。
この人にはどうも、神経質で計算高くて小賢しい、というイメージがあって、好きになれない。マリナーズの最初の年は、けっこう見ていて、謙虚なチャレンジぶりに喝采を送った私ではあるのだが……。何かが変わった? 日本人大リーガーなら松井秀喜のほうが、私の性格に合っている。
ま、いずれにしても、アンチ「日本プロ野球業界」な私としては、断固としてキューバを応援します(でも、たぶん中継見ないだろうな)。
_ MASA [韓国を応援してました。ジェイ・ソウとヒー・サップ・チョイのドジャース・コンビは素晴らしい。日本で言うなら、松井秀喜と..]
「力道山」を知っているというと年齢がバレる。彼がいまでいえば国民栄誉賞ものの英雄であり、テレビ普及期のキラーコンテンツであった時代を私は知っている。プロレスはプロ野球と二分する人気スポーツだったのだ。
この映画は、日本プロレスの英雄が実は朝鮮半島出身の朝鮮人(史実的には日本に帰化しているので国籍は日本)であったことを手がかりにしつつ、民族差別にさらされながら旧宗主国のプロスポーツ界のトップスターにのしあがる姿を、内縁の妻との夫婦愛をからませながら描いた作品。
力道山はその出自を、生前は親しい友人にもひた隠しにしていたとも言われるが、ソル・ギョング演じる力道山は「朝鮮人をしゃべるヤツにオレの友人はいない」と語りつつも、日本人マネージャーの前で朝鮮語を呟くこともあり、また人目を忍んでとはいえ、焼き肉屋を営む同郷の友人を訪ねるシーンもある。そこでの会話は朝鮮語である。史実と映画の微妙な食い違いはともあれ、こうした被支配民族としての出自と屈折は、この映画の基本テーマである。
……というような教育的理解はともあれ、映画としては「よくできたメロドラマ」という印象。残念ながらそれを越えてはいない。内縁の妻役の中谷美紀はあまりにも美しく描かれすぎ。夫に対する馬鹿丁寧な言葉遣いといい、日本の芸妓に対する製作者の美化作用が強い気がしないでもない。また、タニマチ役の藤竜也も渋すぎる。ここでも日本のヤクザへの美化作用が働く。ソン・ヘソン監督は『仁義なき闘い』シリーズを観ていないのだろうか。
ソル・ギョングの日本語は文法的には正確だが、イントネーションがおかしい。日本語の台詞のときの俳優の表情は硬く、一転して母国語の会話シーンではほんらいこの俳優がもつ深みのある表情になる。これは外国語使用時の違和感や負荷が俳優の中で解消されていないためだろうか。それとも、あえて二つの言語使用シーンの対比を通して、無意識の民族問題を浮き彫りにするという魂胆か。
この映画の最大の素晴らしさは、ソル・ギョングの肉体だ。『レイジング・ブル』におけるロバート・デ・ニーロの肉体改造に匹敵する努力は称賛に値する。私はプロレスには全く詳しくないが、著名なレスラーたちが出演しているらしく、試合のシーンは迫力満点だ。スタントも使っていると思われるが、それを感じさせないほど、ソル・ギョングのプロレスは上手い。
1950〜1960年代の日本を再現する稲垣尚夫の美術は秀逸。稲垣を含め日本のスタッフが大勢参加しているとはいえ、外国人監督が描いた日本の情景という意味では、これまでに観たどの作品よりもよくできている。
その意味で、当時の情景にどっぷりとノスタルジックに思い入れをしたい日本人観客を、この映画は排除するものではない。ただ、かつてあった、そして今もある民族排外主義への反省的意識を、ひとによっては喉に刺さった小骨のように感じることもあるだろう。その痛みをどの程度感じるかは、観る人の屈折度次第である。
3/26新宿テアトルにて。公式サイトはこちら
(評価☆☆☆★/5点満点で3.5)
この日記について、筆者は必ずしも内容の信憑性を保証するものではありません。あしからず。
_ baci [「Brokeback Mountain」と「Capote」を観ました。どちらも見てソンはありません。アカデミー賞なん..]