徒然なるままに、日記ですって。
東京・小石川に住んでいるんで、小石川日乗(ちなみに、日乗ってのは日記の古語でしゅ)。
今日は早朝から起きて原稿。午後から取材。帰宅後、原稿。深夜も原稿。眠いよぉ。
拉致問題が頭から離れない。『わが朝鮮総連の罪と罰』(韓光熙著/文藝春秋)を読み始める。
拉致被害者を支援するグループの一つが、「ブルーリボン運動」というのを始めるらしい。
「いまこそ国民がこぞって北朝鮮に抗議を」とか言われると一瞬引いてしまうし、こうした運動が民族差別、民族排外主義に陥る愚は避けるべきだ。
そうでなくても、2ちゃんねるあたりは、無知ゆえなのか、あるいは何か右翼の工作員でも浸透しているのか、聞くにたえない朝鮮・韓国人への差別的言辞のオンパレード。「あそこはいつもだよな」と座視しているわけにはいかないレベル。
保守系論者の主張を引用して、日本帝国主義の植民地侵略を正当化する詭弁も多し。
ここで大地震でも起きたら、関東大震災の朝鮮人虐殺の二の舞さえ起こりかねない雰囲気。
ナショナリズムなどというものに対しては、常に冷静でいること。
早朝から原稿書き。なんとか昼前に1本終えて、昼飯を食ってさて2本目と思ったら、D社のSさんから飲み会案内のメール。
7月にタイに行った雑誌社の連中との。
でもみんな忙しい種族なのに、今週の金曜の夜なんて、空いているのか。
案の定、オレが手配することになったB社チームは二人ともダメ。
そんなメールのやりとりで、仕事に集中できない。
午後4時頃、気を取り直してかかろうとしたら、今度は、A社のW氏から、この前原稿を書いたWebページができたよというメール。
その後も、MuON のMLで、GyazMail の話をしたり(って、これはオレが仕掛けたんだけれど)、1時間ほど仮眠したりで、仕事はかどらず。
なんだかんだで、結局深夜前に半分上がっただけ。
これからどうしよう。ベティスとR・マドリードの試合がライブであるんだよな。
この前スタジアムの照明が落ちて、中断された遺恨試合。
今年はワシはベティス・サポなんでな、これはなんとしても観ないでか。
と思ったら、原稿待ちのN嬢から電話があって、残りは「明日でもいい」って。
ラッキー〜
小石川日記なのだから、ご近所での見聞も書かねば。
春日通り富坂上あたり・中大理工学部前の「まる」というお店。時々行くんだけれど、スタッフが頑張って、よい料理を出してくれる。
きょうはHとそこで晩飯。炭火のミニ七輪で、きのこやら、カワハギやら小魚の干したのやらを炙って、お酒「七賢」で食らう。
酒を飲むのは1週間ぶりぐらいかな。
ここの「ふつうの冷や奴」というメニューの豆腐も旨いなあ。
あと、おでんの大根もほどよく煮えておりました。
今週は「北朝鮮強化週間」ということで、いろいろと本を読んでいる。
■『わが朝鮮総連の罪と罰』韓光熙著/文藝春秋
北の体制の延命を支えたのが、在日朝鮮人の送金であることは事実だろう。
そうした集金マシンの重要な位置にあった元総連活動家の手記。
北朝鮮への帰国船「万景峰号」に直接、現ナマを持ち込んだとか、北からの工
作員が密入国する接岸ポイントを自分が開拓したとも書いている。在日韓国人
を北のスパイに仕立てて、南に送り込んだことも告白している。
オレにとっていちばんショックだったのは、1971年の「学園浸透スパイ事件」
で逮捕された在日韓国人留学生・徐 勝/徐俊植兄弟も著者自身は関わってい
ないが、総連が送り出したスパイだとほのめかしていることだ。
学生の頃、W大の支援集会に顔を出したことがあるんだよね〜。
発足当初は同胞の生活と権利を守るための純粋な互助組織だった総連。
著者自身も高校生のときから、明るい希望を抱いてその活動に専念して
いくのだが、いつの間にか、金王朝への忠誠と奉公だけで動く、文字通
りの走狗になってしまったプロセスが実によく描かれている。
■『謝罪します』八尾恵/文藝春秋
よど号事件の亡命者の元妻の手記。すでに新聞・テレビ等で数多く引用されて
いるものだが、これもあらためて読むとショッキングだ。漠然と自己実現をは
かりたい、世の中を変えたいと思っていた、70年代には無数にいた政治的ミー
ハー少年少女たち。
「北朝鮮の社会主義を現地で勉強してみないか」と誘われ、喜び勇んで北に行
くと、強制結婚をさせられ、思想改造(洗脳)の果てに、有本恵子さんの拉致
に関わっていく。まあ、「数奇な運命」といってしまえばそれまでだが、奇怪
な革命思想にとらわれることで、まっとうな人としての感覚を失っていく姿は、
切ないというしかない。
この人は、学年的には俺より一つ下。オレ自身はその頃から北朝鮮という体制
は嫌いだったので、誘われても行きはしなかったろうが、八尾さんの予備軍み
たいな青年たちがたくさんいた時代というのは、オレにとっては同時代でもあ
るんだな。
■『宿命〜「よど号」亡命者たちの秘密工作』高沢皓司/新潮文庫
分厚い文庫なんで、ようやく半分を読み終わったところ。
これも、希望と変節と絶望の物語。読み物としてもなみの小説なんかよりずっ
と面白い。
著者はかつて新左翼運動の代弁者と目された硬派のジャーナリスト。
よど号グループの田宮高麿の友人でもあった。
よど号グループの日本人拉致作戦を初めて暴いた本といわれる。
つまり、彼はかつての同志たちの思想の変節を批判し、最高級の秘密を暴き、
結果として彼らを“裏切った”。たしかに、平壌の“日本革命村”で、北のふ
つうの人びととはまるで別世界のような宮殿生活を続ける、元赤軍派兵士たち
の姿は、滑稽を通り越して、哀れさえもよおすけれども、たんに、左翼のアホ
のバカさ加減をあげつらったり、第三者的な立場から暴露するだけの代物では
なく、著者自身が身を切る思いでこれを書いている、ということがよくわかる。
拉致事件も含めて、70〜80年代の黒い政治の闇が、ベールをはがされたり、再
び覆われたり、少し頭が混乱している。15日にはその生き証人たちが戻ってく
るんだが、これらの本を読むと、彼ら・彼女らがブレーン・ウォッシングから
解かれて、ほんとうのことを語り出すまでには相当時間がかかると思う。
三連休は完璧昼夜逆転モード。北関係の本を読みまくり。
■『北朝鮮という悪魔』青山健熙著/光文社
タイトルもおどろおどろしく、惹句も「元北朝鮮工作員うんぬん」とセンセー
ショナルだが、正しくは、在日の帰国者が身分社会の北朝鮮で辛酸をなめなが
ら、最後は朝鮮労働党の外貨稼ぎに駆り出されるという話。北の封建的身分制社
会の実態や、帰国在日朝鮮人たちは最初から身分が低く、さまざまな意味で差別
されているという話は、最近は新聞などにも報道されているが、その実態を自ら
の体験で語っている。
しかし、この「成分差別」(身分制)はどこから来るのか。旧体制での資本家
や知識人をあぶり出し、粛清したのはカンボジア・ポルポト政権や、文革の中国
でもあったこと。ソ連の官僚社会でも、党員とそれに連なる家系は一種の特権階
級を形成した。ということは、スターリニズムの負の遺産ということもできよう
が、マルクス主義そのものにそんな思想が含まれていたわけではない。プロレタ
リアート独裁という考え方が変質・転倒したものという言い方もできるが、しか
し、これほどまでに徹底かつ細分化された身分制は北朝鮮独自のものだろう。氏
素性・出身地や家系にこだわる儒教社会の風土がもたらしたものだろうか。
その多くが悲惨な運命に遭遇した在日帰国者のなかでも、著者はまだ生きなが
らえて数十年暮らしたというだけでも幸運な方かもしれない。しかしその運も、
同じ帰国者の妻の実兄が、実業家でかつ総連の幹部をしていたからであって、兄
のビジネスが破綻するととたんにやばくなって、亡命を決意したという次第。
ペンネームはむろん本名ではなく、著者の所在も知らされていない。北を脱出し
て日本に戻って来たものの、家族はまだ中国に置いたままだという。つまりいま
だに身の危険があるということだろう。
■『北朝鮮を知りすぎた医者』ノルベルト・フォラツェン著/草思社
この途中までで時間切れになった。ちょっと仕事をやんなくっちゃ。
ドイツの国際救援NPOから北朝鮮に派遣された医者の見聞記。やけどの移植
に自分の皮膚を提供したことから、「人民友好メダル」というのをもらい、それ
を錦の御旗にして、小児病院の内部を写真に撮って西欧メディアに発表するな
ど、北朝鮮の暗部に光を当てた。読みかけのところまでは、北の病院の悲惨な状
態を解決するためには、人道的な救援が必要だとしており、実際そのために奔走
しているのだが、この前、朝日新聞で読んだ短いインタビューでは、人道救援も
幹部に搾取されるから意味がないというような発言をしていた記憶がある(著作
権上の問題でデータベースで表示されないので、オレの記憶違いかもしれないが
……)。もし本書の後半で、その救援方針の変更が語られているのだとすれば、
それはどういう経緯からか。引き続き読むしかないが、明日以降にお預けだ。
深夜に仕事をしていたら妙に暑い。と思い、Macの Weather Pop の温度計
をみたら、22℃もある。10月中旬の夜だってのに、どういう陽気だ。たしかに
先ほどコンビニに買い物に出たら、まるで春のような生ぬるい南風が吹いてい
た。明日は日中25度まで上がるとか。タマちゃんも、びっくりだよ。
拉致被害者の一時帰国問題、歓迎ムードばっかりだったマスコミ論調にも
そろそろ変化が見られてきた。
「AERA」の10/28号では、蓮池薫氏に焦点を絞り、彼が「特殊機関に務めて
いる」と語ったことの意味を掘り下げている。
・特殊機関とは工作機関のこと。そこで対日、対南工作の一端を担わされて
いるのではないか。
・一時帰国者の中では蓮池氏がいわば“ボス”で、他の帰国者の言動を監視
したり、日本のマスコミ論調を北で報告する任務を負わされているので
はないか。
もちろん確証はないが、かなり説得性のある推論だ。
(ただ、浜本富貴恵さんが蓮池氏を“先生”と呼んでいることで、彼の北にお
ける地位の高さを示そうとしている記述があるが、これはどうか。男性を呼ぶ
ときに“先生”の敬称をつけるのは、朝鮮(韓国)語では一般的。いわば英語
で言う“ミスター”ぐらいの意味だ)
最近も、蓮池氏は「拉致後、日本の植民地時代のことを勉強して、朝鮮南北
分断は日本の植民地支配に原因がある、だから統一に協力しようと思った」と
語り、同窓生との議論で「北に帰さない」と言われると、「自分を洗脳するの
か」と開き直ったという。工作員にしてはやや率直な物言いという気もするが、
かなり確信的な北朝鮮協力者としての24年間だったと見ていいだろう。
萩原 遼著『北朝鮮に消えた友と私の物語』の最後のほうに出てくる、日本
人の北朝鮮帰還者「福間浩子」のようなもの、ということができるかもしれない。
AERAの分析でもう一つ興味深かったのは、一時帰国者らがみな横田めぐみさ
んの存在は認めるのに、他の被害者については何も語っていないこと。また、
平壌の空港に顔を見せたという、横田めぐみさんの“娘”とされる「キム・ヘ
ギョン」の象徴的な意味だ。
孫への愛情をテコに横田夫妻を懐柔し、家族会の分断を図るという北の戦術
が透けてみえるというのだ。たとえキム・ヘギョンは正しくめぐみさんの娘だ
ったとしても、「父には内緒で一人で空港に来る」などということができるは
ずもない。戦術のコマとして使われているな、ということはオレも感じていた。
ただこうした北の戦術が「誤算」だったのは、拉致家族会の事務局長・蓮池
透氏の存在。弟の日本での言動を隠さず暴露し、かえって北の「指示」をあぶ
り出すことになってしまったと、AERAは分析している。
北へ戻る日程などについて、家族会としてはまだ方針を示していない。ぎり
ぎり個別の家族による説得が行われるだろうが、それが破綻した場合、どうい
う混乱が起こるだろうか。
いずれにしても蓮池薫氏の国内での言動にはこれからも要注目だ。家族たち
はゆさぶりをさらに強めることで、彼の動揺を引き出すことが行われるだろう。
そのためには、やはり日本の警察による事情聴取はあって然るべきだと思う。
場合によっては、北の工作員の取り調べ経験が豊かな警察の外事課の刑事を事
情聴取に立ち会わせることなども、必要かもしれない。
~
北朝鮮関係読書週間は相変わらず続いている。昨日は「週刊文春」「週刊新潮」
をチェック。今月号の「文藝春秋」が小泉訪朝以降、拉致被害者の一時帰国の前
までのあたりというタイミングで特集をまとめていたので、購入。関川夏央の論
文に期待していたのだが、そのタカ派ぶりにはちょっと辟易。「噂の真相」の今
月売りはタイミングを外したのか、北関係の記事が少ない。この雑誌、2003年に
は廃・休刊予定ってほんと?
拉致家族を支援するシンボルとしてブルーリボンをつけようっていう運動が
あるらし。これに関する2ちゃんねるのスレを読んでいて、笑ったというか
少々怖くなった。たとえば、
「ブルーリボンをつけてなきゃ非国民というぐらいに、浸透させなくっちゃ」
2ちゃんねるの人びと一流の諧謔であるのは差し引いたとしても、トーンと
してはわりと本音の発言っぽい。それにしても「非国民」ねえ。オレの目の黒
いうちに(って、別にワシは戦前生まれじゃないぜよ)、こういう言葉がメデ
ィア(2ちゃんねるもいちおうメディアだと認めたとして)に載る日が来るとは
なあ。
オレが知らないだけで、これってもう常識? 産経新聞とか「諸君!」とか
「正論」とかでは「非常時非国民摘発特集!」とかが毎号組まれてたりするん?
「在日韓国人・朝鮮人にもブルーリボンを勧めよう。日本在住を許可してもよ
いかどうかの踏み絵になるぜ」
という発言も、考えてみたらすごいっす。こういうスレの周りだけ、なんか
時代が百年遡っちゃっている感じ。現代のウルトラ・ライトはもう少しスマート
に表現するものじゃないかと思ってたんだがなあ。日本人の遺伝子は変わってな
いっす。
こんなもんにいちいち反応しているオレもオレだが、しかしなあ、ネタにせよ
ギャグにせよ妄想にせよ、そういうことを書いた人間がいて、それを書かしめる
社会の雰囲気ってのがあるのはたしかなんだろうなあ。
北関係に一段落ついたら「ナショナリズム」論関係をもうちょっと深めよう。
『〈日本人〉の境界 』 (小熊英二)も未読だし、『民族という虚構』(小坂井敏晶)
も積ん読状態だ。
この日記について、筆者は必ずしも内容の信憑性を保証するものではありません。あしからず。